大江健三郎は「スルー力を持て」とのたもうた

先日テレビで取り上げられていらい、司馬遼太郎の『二十一世紀に生きる君たちへ』がよく売れているらしい。
新潮文庫の『司馬遼太郎が考えたこと14』に入ってて、書店でも山積みになってたりする。単行本にもなってるけど『司馬遼太郎が考えたこと14』の方が「朝日を変える異細胞(「アエラ」創刊パンフレット)」とか「古本の街いまむかし」といった京都絡みの面白い文章が読めるのでおすすめ。という前置きはどうでもよくて。

もう一度繰り返そう。さきに私は自己を確立せよ、と言った。自分に厳しく、相手にはやさしく、とも言った。いたわりという言葉も使った。それらを訓練せよ、とも言った。それらを訓練することで、自己が確立されていくのである。そして、"たのもしい君たち"になっていくのである。

司馬遼太郎『二十一世紀に生きる君たちへ』

放送後の授業でこの『二十一世紀に生きる君たちへ』を取り上げた先生は日本中に多くおられるかと思いますが、そこで大江健三郎の「二十一世紀に生きるあなた方に伝えたい言葉」も一緒に紹介した先生ははたしてどのくらいいたのだろう。
『二十一世紀に生きる君たちへ』を取り上げる先生方は、「ボクはダメな人間だもう死にたい」と思い込んでいる生徒にとって「私は君たちにおおいに期待している」という内容が綴られた『二十一世紀に生きる君たちへ』を紹介することが、ほとんどかれらの自殺を後押しするだけかもしれない、ということをちゃんと考えているのだろうか。そういう想像力をはたして持っているのだろうか。

二十一世紀に生きるあなた方に伝えたい言葉をひとつだけ選べ、といわれたら、私はこういいます。
―もう取り返しがつかないことをしなければならない、と思いつめたら、その時、「ある時間,待ってみる力」をふるい起こすように!

大江健三郎「ある時間、待ってみてください」

まぁ、世のいじめられっこがみんな学校さぼって山にこもって木の梺で読書始めたらえらいことですが、ともあれ今は、

子供を死ぬまで追い込まないためには,自尊心の拠り所を持たせ,逃げ場をつくることが有効だ.学校だけが唯一の社会で,そこから疎外されてしまうから自死を選ぶほど追い込まれるのであって,他にも社会との接点を持ち,何らかの世界で居場所があれば,かなり気楽になれる.そうやって気楽になった上で,もうちょっと視野を広げて,自分をいじめる周囲のことを下らない奴らだと思えるようになれば,そこでいじめられなくなる日も近い.

「木」そのものでなくとも、「自分の木」が必要なんですな。

司馬遼太郎が考えたこと〈14〉エッセイ1987.5~1990.10
司馬遼太郎が考えたこと〈14〉エッセイ1987.5~1990.10司馬 遼太郎

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stars「21世紀に生きる君たちへ」を収録
starsハンモックに揺られて
stars昭和から平成へ〜バブルが崩壊しても、世界に目を向けられていた司馬さんの姿勢。

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「自分の木」の下で
「自分の木」の下で大江 健三郎

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stars人の魂は木から出て木に返る
stars普通の言葉が深く染み込みます
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ちなみに

大人になってしまえば、「ある時間」待ってみても同じだ、ということはあります。

大江健三郎「ある時間、待ってみてください」

大人は待っても無駄らしいよ。9m